第2節 債券先物取引

第2節

債券先物取引

~1.概要~

債券先物取引は、将来のあらかじめ定められた期限日に、現時点で定めた価格で債券の売買を行う契約です。長期国債先物が我が国最初の金融先物取引です。その背景は1975年に財政特例法が施行されことにより、国債発行が増加し、市場残高が累増したことにあります。市場参加者が多くの国債を保有することにより国債の価格変動リスクのヘッジ(回避)手段のニーズが高まりました。そのニーズに応えるために1985年に東京証券取引所に長期国債先物の上場が実現しました。その後、長期国債先物の他に中期国債先物及びミニ長期国債先物の上場も行われています。
(1)標準物

我が国の債券先物取引は、すべて標準物を対象商品としています。標準物とは、利率と償還期限を常に一定とする架空の債券のことです。

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標準物を対象商品とするのは、①対象銘柄を変更する必要がない、②個別銘柄の属性や銘柄間の格差を考慮する必要がない、③価格の継続性が維持されるなどの利点があるとともに海外主要国の市場において広く使用されていることなどがあげられます。

(2)限月取引

ある先物の期限が満了となる月のことを限月げんげつといいます。現在、我が国の国債先物取引限月は3月、6月、9月及び12月になっており、常に3つの限月取引が上場されています(3限月取引制)。現在が1月であれば、その年の3月限、6月限及び9月限の3つの限月が上場されており、取引ができるということになります。なお、各限月取引の最長取引期間は9ヶ月です。
(3)決済

債券先物取引の決済方法には、反対売買による差金決済と、現渡し・現引きによる受渡決済の2つの方法があります。
①差金決済(売買最終日までに行われる決済方法)
差金決済とは、反対売買(買方なら転売を行い、売方なら買戻しを行うこと)によって売り値と買い値の差額で決済する方法です。
②受渡決済(売買最終日に行われる決済方法)
先物建玉たてぎょくが売買最終日までに反対売買によって決済されなかった場合には、先物の売方が手持ちの現物債を買方に渡し(現渡しといいます)、買方は代金を売方に支払うと同時に現物債を引取る(現引きといいます)という決済です(ミニ取引は差金決済のみです)。
国債先物取引の対象商品は架空の債券である標準物で取引されています。よって、実際に受渡決済がされた場合、標準物と受渡しを行う銘柄(受渡適格銘柄といいます)とでは残存年限やクーポン等が通常異なります。そこで、標準物と受渡適格銘柄の価値を同一にするように調整を行います。その調整を行うための比率を交換比率(コンバージョン・ファクターといいます)と呼び、受渡決済をする際の受渡代金算定に用います。
(4)制限値幅

取引所では、先物取引において過度な価格上昇や下落を防ぐように、1日の価格変動幅に一定の値幅制限を設けています。先物価格が取引所の定める変動幅(制限値幅といいます)に達した時には、取引の一時中断措置が実施されます(サーキット・ブレーカー制度といいます)。この制度により過度の価格上昇又は下落に伴う市場参加者の動揺を抑える効果が期待され、それによって投資者保護につながるものとされています。
~2.スペキュレーション取引~

先物取引は証拠金を差し入れることで取引を行うことができます。よって、少ない資金で大きな取引を行うことができます。このような投機取引(スペキュレーション取引)を行うには、投資者の勘だけで行うと非常に危険です。そこで次のような分析方法で取引を行います。

[分析方法]
(1)ファンダメンタル分析

景気動向、金融・財政政策、国際収支及び物価動向等の要素を分析することによって今後の相場を判断する分析方法のことをファンダメンタル分析といいます。
(2)テクニカル分析

過去の相場データ(価格及び出来高等)を様々な方法で分析することによって今後の相場を判断する分析方法のことをテクニカル分析といいます。
スペキュレーション取引の方法として次の2つの方法があります。

[取引方法]
(1)順張り

相場が上昇している時に更に相場が上昇すると見込んで買いを入れたり、逆に相場が下落している時に更に相場が下落すると見込んで売りを入れたりする取引方法を順張りといいます。

《例》長期国債先物の価格が上昇しており、現在の価格が105円の時に、更に上昇すると見込み、長期国債先物を10枚(単位)購入しました。その後見込み通りに価格が107円になった時に長期国債先物10枚を転売した時、利益は次のように計算されます。(107円-105円)×1億円÷100円×10枚=2,000万円(利益)になります。
※長期国債先物の売買単位は額面1億円(1枚)です。
(2)逆張り

相場が上昇している時に今後は相場が下落すると見込んで売りを入れたり、逆に相場が下落している時に今後は相場が上昇すると見込んで買いを入れたりする取引方法を逆張りといいます。
~3.ヘッジ取引~

現物の国債を保有している時に債券相場が下落すれば損失が生じます。そこで現物国債の損失を回避するために債券先物を売り建てる取引を行います。また、債券相場の上昇を見込んで将来現物の国債を購入しようとしているときに、購入時までに債券相場が上昇しすることによって生じる機会損失を防ぐために、債券先物を買い建てる取引を行います。このような先物取引の手法をヘッジ取引といいます。

《例》長期国債現物を額面10億円を保有している当社は、将来の金利上昇を予測し、債券価額が値下がりすることを懸念しています。そこで、保有する長期国債現物と同額の長期国債先物を売ることにしました。なお、長期国債現物価格の現在価格は107円、長期国債先物価格の現在価格は98円です。その後、長期国債現物価格の価格は105.5円、長期国債先物の価格は96.5円になりました。この段階で、長期国債先物を買い戻したときの長期国債現物の損益及び長期国債先物の損益は次のようになります。

長期国債現物の損益
→(105.5円-107円)×10億円÷100円=1,500万円(損失)

長期国債先物の損益
→(98円-96.5円)×10億円÷100円=1,500万円(利益)

債券価額の値下がりによって生じた長期国債現物の損失1,500万円は、長期国債先物を売ることによって生じた長期国債先物の利益1,500万円で埋め合わせすることができました。
~4.ベーシス取引~

先物価格と現物価格は同一価格ではありません。その価格差はそれぞれの市場での需給関係によって拡大したり縮小したりします。その価格差に着目して、一方を買い付けると同時にもう一方を売り付ける取引のことをベーシス取引といいます。

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ベーシスが縮小若しくはマイナスになった時に、将来再び拡大することを見込んで、現物債を買い付けて先物を売り建てる取引を行います(ロング・ベーシス)。逆にベーシスが大きく拡大した時に、将来再び縮小することを見込んで、現物債を売却して先物を買い建てる取引を行います(ショート・ベーシス)。
当初の予想通りにベーシスが動いた時に、先物取引の反対売買を行うことによって利益を得ることができます。このことを裁定取引アービトラージ)ともいいます。
~5.スプレッド取引~

(1)同一商品の先物の異なる二つの限月(期近物きじかものと期先物きさきもの) 間の取引(カレンダー・スプレッド取引)

期近物の価格と期先物の価格の差をスプレッドといいます。このスプレッドがこれから拡大すると予想される場合には、期近物を買って期先物を売ります。これをカレンダー・スプレッドの買いといいます。逆にこのスプレッドがこれから縮小すると予想される場合には、期近物を売って期先物を買います。これをカレンダー・スプレッドの売りといいます。

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《例》現在、長期国債先物の期近物が104.5円、期先物が104.2円(スプレッドは104.5円-104.2円=0.3円)の時に、将来、金利水準の低下により長期及び短期の金利差が拡大してスプレッドが現在以上に拡大すると予想し、このスプレッドの買いを行いました。その後、予想したように債券相場は値上がりし、長期国債先物の期近物は108円、期先物が107.2円になった場合の損益の計算は次のようになります。

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開始時に期近物を買建て、期先物を売建てます。その後、スプレッドが拡大した時に期近物を転売し、期先物を買戻すことで、単位当たり0.5円の利益を獲得することができます。

中期国債先物と長期国債先物の間のスプレッド取引などをイントラマーケット・スプレッド取引といいます。