第3節オプションの利用方法

第3節

オプションの利用方法

~1.オプションの基本型~

(1)コールの買い(ロング・コール)

原証券の市場価格が上昇すると予想する時の戦略です。予想通りに市場価格が上昇すれば上昇するほど利益を獲得することができます。仮に予想に反して市場価格が下落しても当初支払ったプレミアム分の損失に限定されます。
(2)コールの売り(ショート・コール)

原証券の市場価格がやや軟化すると予想する時の戦略です。利益は当初受取ったプレミアム分に限定されます。仮に予想に反して市場価格が上昇すれば上昇するほど損失が拡大します。
(3)プットの買い(ロング・プット)

原証券の市場価格が下落すると予想する時の戦略です。予想通りに市場価格が下落すれば下落するほど利益を獲得することができます。仮に予想に反して市場価格が上昇しても当初支払ったプレミアム分の損失に限定されます。
(4)プットの売り(ショート・プット)

原証券の市場価格が緩やかに上昇すると予想する時の戦略です。利益は当初受取ったプレミアム分に限定されます。仮に予想に反して市場価格が下落すれば下落するほど損失が拡大します。

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~2.ストラドル・ストラングル~

(1)ストラドルの買い(ロング・ストラドル)

ストラドルの買いは、同じ権利行使価格のコール・オプションとプット・オプションを組み合わせて同じ量だけ購入します。重要な経済指標の発表や選挙前など、その結果によって相場が大きく変動すると予想されるときに利用する戦略です。
《例》買いのコール・オプション、買いのプット・オプションともプレミアムが10円、権利行使価格が1,000円とした時の損益線は下記のようになります。

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市場価格が上下どちらかに大きく変動することで利益は拡大します。予想が外れて市場価格の変動がない場合においても、最大損失はコール・オプション及びプット・オプションの2つのプレミアム分に限定されます。
(2)ストラドルの売り(ショート・ストラドル)

ストラドルの売りは、同じ権利行使価格のコール・オプションとプット・オプションを組み合わせて同じ量だけ売ります。市場価格が小動きになると予想されるときに利用する戦略です。
《例》売りのコール・オプション、売りのプット・オプションともプレミアムが10円、権利行使価格が1,000円とした時の損益線は下記にようになります。

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市場価格が小動きに変動すればコール・オプション及びプット・オプションの2つのプレミアム分の利益を最大獲得することができます。予想が外れて市場価格が大きく変動した場合の損失には限度がありません。
(3)ストラングルの買い(ロング・ストラングル)

ストラングルの買いは、異なる権利行使価格のコール・オプションとプット・オプションを購入します。市場価格が大きく変動すると予想されるときに利用する戦略です。ストラドルと似ていますが、行使価格が異なったオプションの組み合わせのため、ストラングルの方がコストが安くなります。

《例》権利行使価格が1,010円のコール・オプションを買い、権利行使価格が990円のプット・オプションを買いました。プレミアムはどちらも10円の時の損益線は下記のようになります。

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市場価格が上下どちらかに大きく変動することで利益は拡大します。予想が外れて市場価格が2つの行使価格の間に入った場合の最大損失はコール・オプション及びプット・オプションの2つのプレミアム分に限定されます。
(4)ストラングルの売り(ショート・ストラングル)

ストラングルの売りは、異なる権利行使価格のコール・オプションとプット・オプションを売ります。市場価格が小動きに変動すると予想するときに利用する戦略です。行使価格が異なるため、市場価格が大きく動かない限り損失を出すことも少なくなります。

《例》権利行使価格が1,010円のコール・オプションを売り、権利行使価格が990円のプット・オプションを売りました。プレミアムはどちらも10円の時の損益線は下記のようになります。

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市場価格がコール・オプション又はプット・オプションの行使価格の間になれば2つのプレミアム分の利益を最大獲得することができます。予想が外れて市場価格が大きく変動した場合には、損失は拡大します。
~3.バーティカル・スプレッド~

(1)バーティカル・ブル・スプレッド

バーティカル・ブル・スプレッドは行使価格の異なった2つのコールを用いる①バーティカル・ブル・コール・スプレッドと行使価格の異なった2つのプットを用いる②バーティカル・ブル・プット・スプレッドがあり、市場価格がやや上昇すると予想されるときに行われる戦略です。いずれも上値を追わず、損失を限定する戦略になります。

バーティカル・ブル・コール・スプレッド
権利行使価格の高いコール・オプションを売り、権利行使価格の低いコール・オプションを買います。

《例》権利行使価格が980円のコール・オプションをプレミアム20円で買い、権利行使価格が1,010円のコール・オプションをプレミアム10円で売った時の損益線は下記のようになります。

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バーティカル・ブル・プット・スプレッド
権利行使価格の高いプット・オプションを売り、権利行使価格の低いプット・オプションを買います。

《例》権利行使価格990円のプット・オプションをプレミアム20円で買い、権利行使価格1,030円のプット・オプションをプレミアム50円で売った場合の損益線は下記のようになります。

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(2)バーティカル・ベア・スプレッド

バーティカル・ベア・スプレッドは行使価格の異なった2つのコールを用いる①バーティカル・ベア・コール・スプレッドと行使価格の異なった2つのプットを用いる②バーティカル・ベア・プット・スプレッドがあり、市場価格がやや下落すると予想されるときに行われる戦略です。

バーティカル・ベア・コール・スプレッド
行使価格の高いコール・オプションを買い、低いコール・オプションを売ります。市場価格がやや下落すると予想するときのポジションになります。

《例》権利行使価格が1,030円、プレミアムが20円のコール・オプションを買い、権利行使価格が990円、プレミアムが50円のコール・オプションを売った時の損益線は下記のようになります。

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バーティカル・ベア・プット・スプレッド
行使価格の高いプット・オプションを買い、低いプット・オプションを売ります。

《例》権利行使価格が1,020円、プレミアムが20円のプット・オプションを買い、権利行使価格が990円、プレミアムが10円のプット・オプションを売った時の損益線は下記のようになります。

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第2節オプション・プレミアムの価格形成と特性

第2節

オプション・プレミアムの

価格形成と特性

~1.プレミアムの価格形成~

コール・オプションのプレミアムを売方から見た場合、原証券価格が行使価格を超える可能性が高まれば、買い手によって権利行使されるリスクが高まるため、プレミアムを高く設定します。また、満期日までの期間が長ければ長いほど、原証券価格の動きがより不確定になりますので、プレミアムを高く設定します。原証券価格と行使価格の差額分の価値のことをイントリンシック・バリュー(本質的価値)と呼びます。また、満期日までの長さや原証券価格の変動性の大きさ等の価値をタイム・バリュー(時間価値)と呼びます。

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(1)本質的価値

権利行使価格と原証券価格との差のことを本質的価値といいます。例えば、コール・オプションにおいて行使価格が1,000円、原証券価格が1,200円であれば、本質的価値は200円となります。

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(2)時間価値

権利行使期間において利益が生じる期待値のことを時間価値といいます 。満期日までの長さ、原証券価格の変動性の大きさ及び金利や配当率によって決定されます。
~2.プレミアムの特性~

(1)原証券価格との関係

コール・オプションの場合、原証券価格が上昇すれば、行使価格を超える可能性が高まりますので、プレミアムも高くなります。

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(2)権利行使価格との関係

コール・オプションの場合、行使価格が高ければ、原証券価格が行使価格を超える可能性が小さくなるため、プレミアムは低くなります。

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(3)満期日までの長さとの関係

コール・オプション及びプット・オプションとも、満期日までの残存期間が短くなるほど原証券価格が行使価格を超える可能性が小さくなるため、プレミアムは低くなります。

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(4)原証券価格のボラティリティ(価格変動性)との関係

満期日までの期間において、原証券価格が10円変動するよりも100円変動する方が、権利行使価格を超える可能性が高まります。よって、コール・オプション及びプット・オプションとも原証券価格のボラティリティが上昇すれば、プレミアムも上昇します。

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(5)短期金利との関係

短期金利が上昇した場合には、コール・オプションの価値は上がります。それは資金を借り入れて原証券を購入した場合に借入利息が生じますが、コール・オプションを購入した場合には、権利行使日まで資金を必要しないためにその間の借入利息負担が発生しないことによります。反対にプット・オプションの場合には、短期金利が上昇した場合には、プット・オプションの価値は下落します。それは、原証券売却時にはその売却資金を運用することで金利収入を得ることが出来ますが、プット・オプションの場合には、売却資金を手にすることができませんので、金利収入分の差がプット・オプションの価値に反映されるからです。

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第1節オプション取引の仕組み

第1節

オプション取引の仕組み

~1.概要~

オプションとは選択権を表す言葉です。オプション取引とはその選択権を売買する取引のことをいいます。オプション取引を定義づけると、ある商品(原証券)を将来のある期日(満期日)までに、その時の市場価格に関係なくあらかじめ定められた特定の価格(権利行使価格)で買う権利(コール・オプション)、又は売る権利(プット・オプション)を売買する取引のことです。
それぞれの権利に対して付けられるオプション価格のことをプレミアムといい、権利の買い手はオプション料であるプレミアムをその権利の売り手に支払うことになります。
(1)オプション取引のタイプ

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(2)コール・オプション

コール・オプションは、原証券を権利行使価格で買う権利のことをいいます。コール・オプションの買い手は売り手に対してプレミアムを支払います。仮に原証券の価格が満期日までに権利行使価格を上回った場合には、買い手はその権利を行使することによって割安な価格で原証券を購入することができますので、購入後すぐに売却すれば売却益を計上することができます。反対に原証券の価格が満期日までに権利行使価格を下回った場合には、権利行使を放棄することになり、その場合には売り手に支払ったプレミアム相当の損失が生じます。

《例1》現在の株価が200円である甲社株式の購入を考えているA氏はまとまった資金がないために、権利行使価格が300円、満期日が1ヶ月後の甲社株式のコール・オプションをプレミアム10円で10,000株分購入しました。満期日になり、甲社株式の株価が400円になったので、A氏は権利を行使し、取得した甲社株式をすぐに売却しました。この場合の損益は次のように計算されます。

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甲社株式を現物購入した場合には、200円×10,000株=200万円の資金が必要であったにもかかわらず、10万円のプレミアムを支払うことによって1ヶ月後に90万円の利益を得ることが出来ました。
仮に甲社の満期日の株価が200円であれば、権利行使をする必要性がありませんので、買う権利を放棄することになります。この場合の損失はプレミアムの支払分である10万円に限定されます。

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《例2》上記、例1のコール・オプションの売方は、甲社株式を300円で購入できる権利をプレミアム10円で10,000株相当売却しました。満期日に400円になったので、買方が権利を行使したことにより、売方は当初の契約通りに300円で譲渡する義務を負うことになります。この場合の損益は次のように計算されます。

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買方が権利行使をすることによって、売方は満期日に90万円の損失を計上することになります。
仮に甲社の満期日の株価が200円であれば、買方は権利を放棄することになります。この場合、売方はプレミアムの受取分である10万円を限度とした利益を得ることになります。売方はプレミアム相当のお金を契約当初に受取ることが出来るメリットがある反面、相場によっては損失の限度がないというデメリットを合わせ持つことになります。

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(3)プット・オプション

プット・オプションは、原証券を権利行使価格で売る権利のことをいいます。プット・オプションの買い手は売り手に対してプレミアムを支払います。仮に原証券の価格が満期日までに権利行使価格を下回った場合には、買い手はその権利を行使することによって利益を獲得することができます。反対に原証券の価格が満期日までに権利行使価格を上回った場合には、権利行使を放棄することになり、その場合には売り手に支払ったプレミアム相当の損失が生じます。

《例3》乙社株式の現在の株価は1,200円です。B氏は乙社株式の株価は今後下落するだろうと予想しています。そこで、権利行使価格900円、1ヶ月後に満期が到来する乙社株式のプット・オプションをプレミアム50円で10,000株分購入しました。その後、B氏の思惑通りに乙社株式の株価は下落し、満期日時点の乙社株式の株価は700円になりました。よって、B氏は権利行使をし、乙社株式を権利行使価格の900円で売り付けました。そのときのB氏の損益は次のようになります。

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B氏は、50万円のプット・オプションを支払うことによって1ヶ月後に150万円の利益を得ることが出来ました。
仮に乙社の満期日の株価が1,000円であれば、権利行使をする必要性がありませんので、売る権利を放棄することになります。この場合の損失はプレミアムの支払分である50万円に限定されます。

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《例4》上記、例3のプット・オプションの売方は、乙社株式を900円で売却する権利をプレミアム50円で10,000株相当売却しました。満期日に乙社株式の株価が700円になり、買方が権利行使をしたことにより、売方は当初の契約通りに900円で購入する義務を負うことになります。この場合の損益は次のように計算されます。

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買方が権利行使をすることによって、売方は満期日に150万円の損失を計上することになります。仮に乙社の満期日の株価が1,000円であれば、買方は権利を放棄することになります。この場合、売方はプレミアムの受取分である50万円を限度とした利益を得ることになります。

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~2.原証券価格と行使価格~

オプション取引では、買方が権利行使及び権利放棄の選択権を持っています。買方が権利行使したときに手に入る金額がプラスの状態をイン・ザ・マネー、権利行使しても何も手に入らない状態をアウト・オブ・ザ・マネーそして原証券価格と行使価格が等しい状態をアット・ザ・マネーといいます。

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ン取引の特徴~

(1)少額の資金で取引

オプション取引は、現物取引と比較して少額の資金で取引に参加することができます。また、売方では現物の保有なくプレミアム相当の資金を手に入れることができます。
(2)レバレッジ効果

オプション取引は少ない資金で大きなリターンを得ることができます。
(3)リスクの限定及び回避効果

 

オプション取引の買方は、仮に当初の相場予想が外れて権利放棄をすることになっても、損失はプレミアム支払分に限定されます。売方はプレミアムを受取ることによって現物の価格変動リスクを受け入れることになります。
(4)様々な損益パターンの作成

様々なオプションを組み合わせることで現物取引では不可能な損益パターンを作成することができます。

第4節 その他の論点

第4節

その他の論点

~1.証拠金制度~

(1)証拠金所要額

証拠金所要額とは、ポートフォリオ全体の建玉について必要とされる証拠金額です。証拠金所要額は、現在、東京証券取引所(指定清算機関であるクリアリング機構)・大阪証券取引所ともにSPAN(The Standard Portfolio Analysis of Risk)システムで計算されます。SPANとは、シカゴ・マーカンタイル取引所が開発した計算方法のことをいい、ポートフォリオ全体の建玉から将来発生すると見込まれるリスクをシミュレートし算定します。
(2)証拠金の差し入れ

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~2.立会外取引(立会市場外の市場における売買)~

立会市場外において取引所の定める数量以上で同限月取引の売付けと買付けを同時に行う取引のことを立会外取引といいます。国債先物取引及び株価指数先物取引とも、同一取引参加者内での対当取引及び異なる取引参加者間での取引を行うことができます。
なお、東京証券取引所の立会外取引はToSTNeT取引、大阪証券取引所の立会外取引はJ-NET取引と呼ばれます。
~3.ギブアップ制度~

注文の執行業務とポジション証拠金の管理といった清算業務を異なった取引参加者に依頼することができる制度のことをギブアップ制度といいます。顧客、注文執行参加者及び清算執行参加者の3者間でギブアップ契約書を締結することにより利用可能となります。大阪証券取引所では2007年5月から、東京証券取引所では2008年1月から導入されました。

第3節 株価指数先物取引

第3節

株価指数先物取引

~1.概要~

日本の株式市場全体を表す代表的株価指数として、TOPIX東証株価指数)と日経平均株価の2つがあります。TOPIXは、東証市場第一部上場の普通株式全銘柄の時価総額の合計額が1968年1月4日時点と比較してどれだけの大きさになっているかを表します。日経平均株価東証市場第一部上場の普通株式全銘柄のうち市場をよく反映すると思われる225銘柄を選び、その株価合計を権利落ちなどの影響で株価が不連続になるのを防ぐためにその都度修正された除数で割って算定します。
株価指数先物取引は、これらTOPIX及び日経平均株価などのインデックスを対象とした先物取引です。
(1)種類

TOPIX先物
TOPIX先物取引は1988年、我が国初の指数先物取引東京証券取引所で取引されています。TOPIX東証株価指数)を対象商品とする株価指数先物取引です。
・取引単位TOPIXの10,000倍
限月取引3、6、9、12月の5限月取引
・呼値単位0.5ポイント

TOPIX先物取引の利便性向上及び少額で取引に参加できることなどを目的に2008年6月にミニTOPIX先物取引が上場されました。ミニTOPIX先物取引の取引単位はTOPIXの1,000倍の金額になっています。

日経平均株価先物(一般に日経225先物と呼ばれています)
日経平均株価先物は1988年9月から大阪証券取引所で取引されています。日経平均株価を対象商品とする株価指数先物取引です。
・取引単位日経平均株価の1,000倍
限月取引3、6、9、12月の5限月取引
・呼値単位10円
日経平均株価先物取引の利便性及び少額で取引に参加できること等を目的に日経225miniが上場されています。日経225miniの取引単位は日経平均株価の100倍の金額になっています。
(2)決済

株価指数先物取引には、次の2つの決済方法があります。
①反対売買
反対売買とは期限日までに買建ての場合は転売、売建ての場合は買戻しを行うことによって決済を行う方法です。差金の受渡しは、反対売買約定日の翌営業日目に行います。

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②最終決済
期限日までに反対売買での決済を行わなかった場合には、約定価格と特別清算指数(スペシャル・クォーテーション:SQ)との差額で決済されます。差金の受渡しは、取引最終日から起算して3営業日目の日に行います。

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(3)制限値幅

株価指数先物取引では、一日の価格変動幅に一定の制限を設けています。また、先物価格が大きく変動した場合には、相場の乱高下を防止するために先物価格が取引所の定める変動幅(制限値幅)に達した場合、全ての限月取引の一時中断措置が実施されます。このことをサーキット・ブレーカー制度といいます。
~2.各種取引~

(1)ヘッジ取引

現物株式を保有している時に株式相場が下落すれば損失が生じます。また、株式相場の上昇を見込んで将来現物株式を購入しようとしているときに、購入時までに株式相場が上昇することによって生じる機会損失が生じます。それらの損失を回避するために先物取引を利用します。このような先物取引の手法をヘッジ取引といいます。
(2)スプレッド取引

①カレンダー・スプレッド取引
同一商品の異なる限月取引間において期近物の価格と期先物の価格の差(スプレッド)が一定水準以上乖離したときに、割高な限月を売り建て、同時に割安な限月を買い建てます。その後スプレッドが一定水準に戻ったところで反対売買を行い、利益の獲得を狙います。このような先物取引手法のことをカレンダー・スプレッド取引といいます。
実勢スプレッド(翌限先物価格-当限先物価格)が理論スプレッド(翌限先物理論価格-当限先物理論価格)に対しプラス乖離している場合には、スプレッドの売りを行います。また、反対にマイナス乖離をしている場合には、スプレッドの買いを行います。

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《例》現在、日経平均株価の期近物が10,000円、期先物が10,300円(スプレッドは300円)の時に、将来、金利水準の上昇によりスプレッドが現在以上に拡大すると予想し、このスプレッドの買いを行いました。その後、金利先高感が強まり、期近物は10,200円、期先物が10,550円になった場合の損益計算は次のようになります。

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このスプレッドの買いにより1単位当たり50円×1,000=5万円の利益を獲得することができます。
一般的に金利予想に対応するスプレッド・ポジションは次のようになります。

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②インターマーケット・スプレッド取引(市場間スプレッド取引)

TOPIX先物日経平均株価先物などの異なる市場間の価格差を利用した取引のことをインターマーケット・スプレッド取引といいます。
(3)裁定取引アービトラージ取引)

先物価格と現物価格の価格差に着目して、一方を買付けると同時にもう一方を売付ける取引を行い、当初の予想通りに価格差が動いた時に、先物取引の反対売買を行うことによって利益獲得を狙う取引のことを裁定取引アービトラージ)といいます。

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乖離が解消された時点、又は満期日に現物取引及び先物取引の決済を行うことにより利益を獲得することができます。

第2節 債券先物取引

第2節

債券先物取引

~1.概要~

債券先物取引は、将来のあらかじめ定められた期限日に、現時点で定めた価格で債券の売買を行う契約です。長期国債先物が我が国最初の金融先物取引です。その背景は1975年に財政特例法が施行されことにより、国債発行が増加し、市場残高が累増したことにあります。市場参加者が多くの国債を保有することにより国債の価格変動リスクのヘッジ(回避)手段のニーズが高まりました。そのニーズに応えるために1985年に東京証券取引所に長期国債先物の上場が実現しました。その後、長期国債先物の他に中期国債先物及びミニ長期国債先物の上場も行われています。
(1)標準物

我が国の債券先物取引は、すべて標準物を対象商品としています。標準物とは、利率と償還期限を常に一定とする架空の債券のことです。

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標準物を対象商品とするのは、①対象銘柄を変更する必要がない、②個別銘柄の属性や銘柄間の格差を考慮する必要がない、③価格の継続性が維持されるなどの利点があるとともに海外主要国の市場において広く使用されていることなどがあげられます。

(2)限月取引

ある先物の期限が満了となる月のことを限月げんげつといいます。現在、我が国の国債先物取引限月は3月、6月、9月及び12月になっており、常に3つの限月取引が上場されています(3限月取引制)。現在が1月であれば、その年の3月限、6月限及び9月限の3つの限月が上場されており、取引ができるということになります。なお、各限月取引の最長取引期間は9ヶ月です。
(3)決済

債券先物取引の決済方法には、反対売買による差金決済と、現渡し・現引きによる受渡決済の2つの方法があります。
①差金決済(売買最終日までに行われる決済方法)
差金決済とは、反対売買(買方なら転売を行い、売方なら買戻しを行うこと)によって売り値と買い値の差額で決済する方法です。
②受渡決済(売買最終日に行われる決済方法)
先物建玉たてぎょくが売買最終日までに反対売買によって決済されなかった場合には、先物の売方が手持ちの現物債を買方に渡し(現渡しといいます)、買方は代金を売方に支払うと同時に現物債を引取る(現引きといいます)という決済です(ミニ取引は差金決済のみです)。
国債先物取引の対象商品は架空の債券である標準物で取引されています。よって、実際に受渡決済がされた場合、標準物と受渡しを行う銘柄(受渡適格銘柄といいます)とでは残存年限やクーポン等が通常異なります。そこで、標準物と受渡適格銘柄の価値を同一にするように調整を行います。その調整を行うための比率を交換比率(コンバージョン・ファクターといいます)と呼び、受渡決済をする際の受渡代金算定に用います。
(4)制限値幅

取引所では、先物取引において過度な価格上昇や下落を防ぐように、1日の価格変動幅に一定の値幅制限を設けています。先物価格が取引所の定める変動幅(制限値幅といいます)に達した時には、取引の一時中断措置が実施されます(サーキット・ブレーカー制度といいます)。この制度により過度の価格上昇又は下落に伴う市場参加者の動揺を抑える効果が期待され、それによって投資者保護につながるものとされています。
~2.スペキュレーション取引~

先物取引は証拠金を差し入れることで取引を行うことができます。よって、少ない資金で大きな取引を行うことができます。このような投機取引(スペキュレーション取引)を行うには、投資者の勘だけで行うと非常に危険です。そこで次のような分析方法で取引を行います。

[分析方法]
(1)ファンダメンタル分析

景気動向、金融・財政政策、国際収支及び物価動向等の要素を分析することによって今後の相場を判断する分析方法のことをファンダメンタル分析といいます。
(2)テクニカル分析

過去の相場データ(価格及び出来高等)を様々な方法で分析することによって今後の相場を判断する分析方法のことをテクニカル分析といいます。
スペキュレーション取引の方法として次の2つの方法があります。

[取引方法]
(1)順張り

相場が上昇している時に更に相場が上昇すると見込んで買いを入れたり、逆に相場が下落している時に更に相場が下落すると見込んで売りを入れたりする取引方法を順張りといいます。

《例》長期国債先物の価格が上昇しており、現在の価格が105円の時に、更に上昇すると見込み、長期国債先物を10枚(単位)購入しました。その後見込み通りに価格が107円になった時に長期国債先物10枚を転売した時、利益は次のように計算されます。(107円-105円)×1億円÷100円×10枚=2,000万円(利益)になります。
※長期国債先物の売買単位は額面1億円(1枚)です。
(2)逆張り

相場が上昇している時に今後は相場が下落すると見込んで売りを入れたり、逆に相場が下落している時に今後は相場が上昇すると見込んで買いを入れたりする取引方法を逆張りといいます。
~3.ヘッジ取引~

現物の国債を保有している時に債券相場が下落すれば損失が生じます。そこで現物国債の損失を回避するために債券先物を売り建てる取引を行います。また、債券相場の上昇を見込んで将来現物の国債を購入しようとしているときに、購入時までに債券相場が上昇しすることによって生じる機会損失を防ぐために、債券先物を買い建てる取引を行います。このような先物取引の手法をヘッジ取引といいます。

《例》長期国債現物を額面10億円を保有している当社は、将来の金利上昇を予測し、債券価額が値下がりすることを懸念しています。そこで、保有する長期国債現物と同額の長期国債先物を売ることにしました。なお、長期国債現物価格の現在価格は107円、長期国債先物価格の現在価格は98円です。その後、長期国債現物価格の価格は105.5円、長期国債先物の価格は96.5円になりました。この段階で、長期国債先物を買い戻したときの長期国債現物の損益及び長期国債先物の損益は次のようになります。

長期国債現物の損益
→(105.5円-107円)×10億円÷100円=1,500万円(損失)

長期国債先物の損益
→(98円-96.5円)×10億円÷100円=1,500万円(利益)

債券価額の値下がりによって生じた長期国債現物の損失1,500万円は、長期国債先物を売ることによって生じた長期国債先物の利益1,500万円で埋め合わせすることができました。
~4.ベーシス取引~

先物価格と現物価格は同一価格ではありません。その価格差はそれぞれの市場での需給関係によって拡大したり縮小したりします。その価格差に着目して、一方を買い付けると同時にもう一方を売り付ける取引のことをベーシス取引といいます。

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ベーシスが縮小若しくはマイナスになった時に、将来再び拡大することを見込んで、現物債を買い付けて先物を売り建てる取引を行います(ロング・ベーシス)。逆にベーシスが大きく拡大した時に、将来再び縮小することを見込んで、現物債を売却して先物を買い建てる取引を行います(ショート・ベーシス)。
当初の予想通りにベーシスが動いた時に、先物取引の反対売買を行うことによって利益を得ることができます。このことを裁定取引アービトラージ)ともいいます。
~5.スプレッド取引~

(1)同一商品の先物の異なる二つの限月(期近物きじかものと期先物きさきもの) 間の取引(カレンダー・スプレッド取引)

期近物の価格と期先物の価格の差をスプレッドといいます。このスプレッドがこれから拡大すると予想される場合には、期近物を買って期先物を売ります。これをカレンダー・スプレッドの買いといいます。逆にこのスプレッドがこれから縮小すると予想される場合には、期近物を売って期先物を買います。これをカレンダー・スプレッドの売りといいます。

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《例》現在、長期国債先物の期近物が104.5円、期先物が104.2円(スプレッドは104.5円-104.2円=0.3円)の時に、将来、金利水準の低下により長期及び短期の金利差が拡大してスプレッドが現在以上に拡大すると予想し、このスプレッドの買いを行いました。その後、予想したように債券相場は値上がりし、長期国債先物の期近物は108円、期先物が107.2円になった場合の損益の計算は次のようになります。

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開始時に期近物を買建て、期先物を売建てます。その後、スプレッドが拡大した時に期近物を転売し、期先物を買戻すことで、単位当たり0.5円の利益を獲得することができます。

中期国債先物と長期国債先物の間のスプレッド取引などをイントラマーケット・スプレッド取引といいます。

 

先物取引の仕組み

先物取引の仕組み

~1.概要~

先物取引とは、①特定の商品を、②将来の定められた日に、③あらかじめ定めた価格で売買することを現時点で約束する取引です。先物取引の契約により、買方は売方より期限日に対象商品を約定価格で購入する義務を負います。反対に売方は買方に対象商品を約定価格で売却する義務を負います。

 

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上記、契約締結後、8/20に先物価格96円で差金決済を行った。差金決済とは96円で買戻し、100円で売り渡す反対売買により差益4円を受取る決済方法のことをいいます。

世界で最初に制度化された先物取引は、18世紀前半に我が国の大阪での堂島米市場で行われた「帳合米商い」と言われています。気候等の影響が生産物の価格に反映される農産物等の先物取引では、価格変動リスクを回避するために生まれました。
先物取引の目的は、価格変動リスクの回避目的で行う先物取引(ヘッジ取引といいます)以外に、高い収益を得るための投機目的で行う先物取引スペキュレーション取引といいます) や、先物と現物又は先物先物間の価格の乖離をとらえて収益を得る目的で行う先物取引裁定取引といいます)等があります。
~2.特徴~

(1)反対売買による決済

先物取引では買方は対象商品価格が上昇すれば利益が発生し、反対に下落すれば損失が生じます。売方は対象商品価格が上昇すれば損失が発生し、反対に下落すれば利益が生じます。先物取引は期限日前に買方は転売、売方は買戻し(反対売買といいます)で決済することができます。
(2)取引の標準化

先物取引は多くの投資家が同一の取引に参加することができるように商品の種類、取引単位等の諸条件がすべて取引所において標準化されています。
(3)証拠金制度

顧客が先物取引を行う場合には、取引の安全性を確保するために金融商品取引業者等に取引を行った日の翌営業日に証拠金を差し入れなければなりません。また証拠金制度の補完として値洗い制度を導入しています。値洗い制度とは、建玉を毎日の清算値で評価替えし、日々、評価差損益の授受を行う制度です。
建玉とは、未決済になっている契約の総数のことをいいます。
~3.種類~

先物取引金融商品取引法において、対象商品及び期限日の決済方法の違いによって有価証券先物取引と有価証券指数等先物取引の2つに大別されます。

 

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日本で最初に導入された金融先物取引は、長期国債先物です。その後、多くの金融先物取引が取引所に上場されました。現在、日本の取引所に上場され、金融商品取引業者等が取り扱うことのできる主な金融先物取引は下記のとおりです。

 

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~4.先物価格の形成~

先物価格は、期限日の現物価格を表します。先物の期限日が到来すると先物は現物になります。このように先物価格は現物価格と密接な関係を持っています。つまり、先物の理論上の価格は、今、現物を取得するために必要な資金を借りてきたと仮定すると、その資金に借入利息を加算した金額から現物を取得することによって得られる収入(株式なら配当金、債券なら受取利息)を差し引いた金額になると推定されます。もちろん、先物の理論上の価格はあくまでも理論価格であって、現物価格通りに動くとは限りませんが、通常は先物の理論価格は下記の計算式で算定されます。

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~5.先物取引信用取引の相違~


先物取引と先述の信用取引には、証拠金制度及び値洗い制度の採用等において類似しているところがあります。しかし、下記の2点において両者の本質的な部分において異なっています。
(1)貸借関係の相違

信用取引の買方は金融商品取引業者から代金の融資を受け、売方は金融商品取引業者かから株式を借りて売買を行います。先物取引はそのような貸借関係は存在しません。
(2)価格付けの相違

信用取引では現物市場において取引が行われますので、信用取引の価格と現物取引の価格は同一のものとなります。しかし、先物取引では現物市場とは異なる先物市場で取引が行われますので、先物取引の価格と現物取引の価格は別々のものとなります。